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精神の復権に向けて

現代社会は、過去300年間の科学技術の発展による工業化により、過去のいかなる時よりも急激な発展を遂げた。人類はおよそ30~50万年前に出現し、1万3千年ほど前から農耕・牧畜を始めて文明と呼ばれるものが始まった。そして17世紀後半から、自然を精密に研究する事で利用せんとする科学技術が発達し、18世紀の終わりに起きた産業革命という工業化でそれが加速され現代に至っている。

17世紀に始まる科学技術の発展の基礎はルネ・デカルトの二元論による。思惟する自我と、その延長線上にある物質という思想により人間とそれ以外の動植物や自然は単なる物質という人間中心主義の始まりである。それは西欧においてヒューマニズムという形で表現されるものとなり、現在でも世界中でこの言葉は使われている。すでにその詳細は「戦争を肯定する西欧思想とは何か」に記した。人間中心の思想は神という人間以上の者の存在を否定し、人間の理性というものに全てを見ようとした。しかし、現実には理性という作りもので人間の本質を規定する事は不可能であった。人間中心の社会とは、物質に対する無限の欲望の肯定に他ならない。ヘーゲルは国家の絶対化で弁証法という理論で戦争を肯定し、それは西欧の国家覇権主義となって収奪経済を作り上げる思想的な背景となる。さらにフォイエルバッハの欲望肯定の思想はマルクスに至り、ヘーゲルの弁証法を借りた生産絶対主義の階級間闘争による社会主義国家の実現という唯物弁証法の理論となった。ここで物質的な欲望は際限のない発展が約束されていくのである。欲望の肯定はニーチェにおいては、強き者による他を支配せんとする意志となり、フロイトによっては人間の活動の根源は性という欲望が支配しているという考えになってゆく。こうして世界はますます人間の欲望に歯止めがない社会になっていったのである。

19世紀後半の明治維新で、日本が西欧思想と科学技術による富国強兵政策を取り入れた事で、わが国も基本的に過去の思想から西欧の人間中心の思想に転換したのである。戦前までは忠君愛国という道徳教育が残っていたが、敗戦による価値観の転換で、過去の道徳は存在する思想的根拠を失い、以来、わが国の教育から道徳という概念までもが失せ、経済的な欲望の追及一辺倒の社会となって、それが現在も続いている。明治以前に日本人が持っていた仏教や儒教による厳しい倫理に基づく道徳観は、明治維新の廃仏毀釈により徹底的に失われた。我々の祖先が連綿と持っていた原始神道による自然崇拝に基づく神は殺され、新たに天皇という神が現れる事となった。その神も敗戦により人間宣言する事で、わが国から神は完全に消えたのである。

すでに人間中心の思想は、西欧において19世紀から問題が指摘し始められていたが、明治維新からの日本はそれに気づくことなく現代に至っている。神を捨てた現代社会は、欲望だけの肯定社会のままに動き続けている。戦争はなくならず、宗教間の対立もなくならず、それはむしろひどくなっている。新たな経済的な発展を遂げつつある新興国家により、西欧と他の文明との衝突はいつ起きても不思議のない世界になりつつある。このような状況を変えなければならないのに、どの国も主導的な思想を述べられない。欲望だけを肯定する資本主義社会は必ず行き詰まる。わが国が経験した精神の喪失という神の喪失、その問題をもっと考えなければならない。人はパンのみに生きる者にあらずというキリスト教の教えに象徴されるように、人間から精神という心の問題を抜きにした社会は異常である。他人を殺してはならないとか、人のものを盗んではならないとか、嘘をついてはならないという本当に基本的な道徳なしに社会は存在できるのであろうか。その大事な精神の復権がなければ、日本国民にも人類にも未来はあり得ない。物と心の両立が必要なのである。世界に求められるのは心という精神の復権である。それを世界に発信する事こそが我々日本人に課せられた義務である。

それにしてもわが国の精神の劣化はひどすぎる。経済という欲望の拡大だけが至上命題になったまま何も変わらず、公務員も政治家もマスコミも、さらには知識人といわれる者たちも、原発事故や小沢一郎に関わる政治とカネという問題、さらには消費税の増税での嘘だらけの社会。このように社会を導くべき者たちの道徳の劣化のひどさ。これでは世界に新しい思想を発信する事など夢のまた夢に思える。もはや国民、一人一人が覚醒して国を変える以外に方法はないように思える。震災対応で世界が驚いた日本人の対応、その心にある精神の復権が必要である。

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